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VPDとは「ワクチンで防ぐことのできる病気」というよりむしろ「ワクチンで防ぐべき病気」

麻疹(はしか)や、風疹、ポリオなど、ワクチンで防ぐことのできる病気を、「VPD(Vaccine Preventable Diseases)」といいます。VPDが原因で、子どもたちが健康を損ねたり、死亡してしまったり、そうでなくとも苦しませたりすることは、非常に悲しいことですし、もったいないことだと思います。最終的に子どもに予防接種を受けさせるかを決断するのは保護者ですから、子どもにワクチンを接種せず、感染症でその子どもの命が危ぶまれるのは、一見保護者の責任のように見えます。しかし、私は、VPDの重大性やワクチンの安全性に関する正しい情報を保護者にしっかり伝えていない社会の責任だと思います。子どもの命はそのご家族にとってだけでなく、社会にとっても、かけがえのないものです。防ぐことができる病気から子どもを守ろうとしないということ~これはまさに社会のネグレクト、虐待にも等しいと考えています。子どもたちの健康を願うならば、VPDは「ワクチンで防ぐことのできる病気」というより、「ワクチンで防ぐべき病気」であるはずです。良いワクチンを受けることは子どもの基本的人権でもあります。

日本の予防接種の常識は世界の非常識~日本の予防接種の問題点

VPDで子どもたちの健康が危険にさらされる、その最大の原因は、VPDの重大さを社会全体で共有できていないこと、つまり社会のネグレクトにあります。米国と日本ではVPD患者数には大きな差があります。日本はなぜ「予防接種後進国」と呼ばれるほど世界から遅れをとってしまったのでしょうか?それによってなぜ日本の子どもたちが損なわれるはずのない健康を損ない続けているのでしょうか?これは予防接種に関するハードとソフトが共にうまく機能していないことが原因です。


↑米国は全数報告で、その報告数の信頼度は高いとされる。それに対して日本での報告数は限られた定点からのあくまでもサンプリング調査によるもので、実際の罹患者数はこれよりも多い。麻疹に関しては2007年でも約10万人が罹患したと推定される。ワクチン接種率も考慮すると、おたふくかぜで年間60万人、水痘では年間80万人程度が罹患していると推定している。(薗部先生)

ハードとは使用できるワクチンの種類です。日本でも乳幼児期に数多くのワクチンを接種するイメージが強いですが、海外の先進国ではより多くの種類のワクチンを接種します。接種できるワクチンが多いということは、それだけ多くのVPDから子どもたちを守ることができるということです。日本では新しいワクチンを導入する国の意志が乏しく、治験が難しい上に承認にも時間がかかるため、世界では必須のワクチンでも未だに接種できないワクチンがあります。また、今回の新型インフルエンザワクチンの供給体制から言えることですが、予防接種体制は危機管理体制の一つです。日本でもワクチン会社の体制を国が支援して強化すべきです。


ソフトとは、いかにVPDを防ぐか、正確に言えばいかに接種率を上げるかのための方策です。実際としていくらハードが整っていて、良いワクチンが揃っていても接種しなければ効果はありません。接種率を下げる最大の要因が接種料金でしょう。まず総ての任意接種ワクチンを定期接種にする必要があります。ただしあくまでも定期接種化は必須条件に過ぎません。定期接種疾患でありながら麻疹がこれだけ流行する状況からもわかるように、日本ではこの接種率を高めるためのソフトの面が極めて遅れています。

そしてこの予防接種のハードとソフトをうまく機能させるためには、政府だけでなく、議会、司法、マスコミ、学校、ワクチンメーカーそして医師会や小児科医を中心とした各種団体が一堂に集まって米国のACIP(Advisory Committee on Immunization Practices:予防接種実施の勧告委員会)のような専門機関を設置して、しっかりとした長期戦略作りとその施行が大切です。ただし形だけの機関ではなく、米国のACIPのように、疫学調査やその他の情報をそろえる下部組織(ワーキンググループ)に人手と予算を十分に付け、この機関で決めたことには必ず国が予算をつけて定期接種化するなどの仕組みが必要です。これらを含めて改善すべき点は数多くあり、国民の健康の最高責任者である方々の決断が望まれます。

日本の子どもたちが受けられるワクチンを増やしたい

私は、ウイルス学もワクチンの基礎も専門的に学んだわけではありませんが、臨床医として予防接種に携わり、またVPDに苦しむこどもたちを直に診てきました。そのなかで、やはり予防接種の根本をなすハード面である、「ワクチンの種類」を早く増やして欲しいという思いがありました。諸外国ではあたりまえに予防できる疾患から日本の子どもたちを守ることができないというのはいたたまれない思いでした。これを解決するために、MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)に始まり、MMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン)や、ツベルクリン、不活化ポリオワクチン、Hibワクチン、日本脳炎ワクチンなど数多くのワクチンの治験に協力してきました。新しいワクチンですから、お母さん方に協力していただくのは、非常に骨の折れることでしたが、普段の診療によって信頼を得ることができたお母さん方に、時間をかけて説明をし、協力を仰ぎました。ワクチンでも、薬剤でも、こういった協力をしていただいた方々にも感謝しながら使用していきたいものです。

まずはVPDを知って欲しい

保護者だけでなく医療関係者でさえ、VPDやワクチンについての情報を得る機会は、ほとんど無いと言っても過言ではないでしょう。そこで私は、保護者を含めて子どもたちの健康に関わる方々に、まずはこのVPDについて知っていただきたいと思いました。2008年4月25日、同じ思いを持った現場の小児科医が集まって、「VPDを知って、子どもを守ろう。」の会を立ち上げました。この会では、ホームページを開設したり、リーフレットを配布したりして、子どものVPDや感染症に関する情報、予防接種に関する情報、諸外国の感染症対策情報などを提供しています。一般の方にはあまり馴染みが無い「VPD」という名称をあえて使用したのは、いつの日か多くの人々が予防接種について語るとき、当然のようにこの言葉を使ってもらいたいという願いからです。今後は、生後2か月から接種できるワクチンも増えるので、家庭訪問をなさる保健師の方や、保育士、報道関係者の方々に向けてリーフレットなどでの情報提供もしていきます。


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