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最適なワクチンの探索は、
まるで宝探し

学生時代の研究内容

治療法のない疾患を解決できる研究者を志して

病気がちだった幼少期に薬局の薬剤師さんにお世話になった経験から、大学は薬学部を選択しました。入学当初は病院や薬局の薬剤師に興味を持っていましたが、講義や臨床実習を通じて、治療法・予防法が確立していない疾患が多く残されていることを実感し、そうした疾患を解決できる研究者を志すようになりました。
大学の研究室では、膜輸送体(トランスポーター)の機能解析研究に取り組んでいました。細胞膜や細胞内外の小胞膜上に局在するトランスポーターは、シグナル分子や栄養素、代謝物などの輸送を担っており、生命活動に不可欠な分子です。その発現や機能の異常は様々な疾患を引き起こしますが、トランスポーターの機能解析は技術的に容易でなく、多くのトランスポーターの機能が解明されていません。私は、そうした機能未知のトランスポーターの中から、発現の低下が中枢神経疾患を引き起こすと報告されている分子に着目して機能解析系を構築し、輸送基質を同定することに成功しました。

私の研究について

試行錯誤を繰り返し最適なモダリティを追求

研究テーマについて

ワクチンは、投与した抗原が量的・質的に十分な免疫応答を誘導する必要があります。私たちのグループでは、優れた免疫誘導能を示すワクチンを開発するために、有効なワクチンが存在しない様々な病原体について、抗原デザインの最適化や免疫賦活剤(アジュバント)の探索研究を進めています。

私が主に取り組んでいるテーマは、ターゲットに対する最適なモダリティの検討です。「ワクチン」と一口に言っても、生・不活化・組換えタンパク質・ウイルスベクター・mRNAなど、近年では様々な種類=モダリティのワクチンが実用化されています。それらは抗体を誘導しやすいもの、細胞性免疫を誘導しやすいもの、など異なる免疫学的特徴を有しているため、結果としてワクチンの効果や副反応を左右します。したがって、モダリティの選択はワクチンの開発初期段階における重要な課題の一つだといえます。そこで私は、現在ターゲットとしている病原体に対して有効かつ安全なワクチンを探索するために、複数のモダリティのワクチンを試作し、その効果や安全性を評価しています。

取り組み方

基礎研究は、大きな山の中から一粒の成功を探す砂金探しのような仕事です。期待通りの結果が得られるときもある一方で、良い結果が得られないこともしばしばあります。うまくいかずに悩んだとき、私が心にとどめているのは「失敗をマイナスととらえない」ということです。失敗して落ち込むのは仕方ありませんが、そこで手を止めてしまっては研究が進まなくなってしまいます。失敗したデータから改善策を思いつく限り考え、他の研究者にも意見を聞きながら、実際に手を動かして「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤することを大切にしています。

アカデミアとの距離が近く、研究者との交流を通じて自らの知見を高めることができる

研究環境

私は大阪大学とBIKEN財団の連携研究組織に所属しています。大阪大学の豊富な実験機器や病原体の取り扱いが可能な施設を利用することができ、非常に恵まれた研究環境です。また、アカデミアとの距離が近く、大学の先生方と密にディスカッションできる点も魅力的です。所属するグループは大阪大学ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)に参画しており、協力研究室との技術交流も活発に行っています。大阪大学微生物病研究所内では、定期的に講演会・セミナーも開催されていて、一流研究者との交流を通じて自らの知見を高めることができます。研究を進めつつ、一人の研究者として成長できる環境だと感じています。

今後の展望

アイデアと技術の蓄積で、求められるワクチンを迅速に

私は学生時代に微生物学や免疫学とは離れた分野で研究していました。入会して初めてワクチン研究にチャレンジし、その面白さや難しさを実感している最中です。知識・経験の面で至らない点はたくさんありますが、そのぶん毎日の新たな学びにわくわくしながら研究を進めています。

新型コロナウイルスのmRNAワクチンが迅速に開発された背景には、感染流行以前からの技術の蓄積があったといわれています。将来発生するかもしれないパンデミックの際に速やかにワクチンを開発するためには、常識や目先の流行だけにとらわれず、平時から多くのアイデアや技術を蓄積しておくことが重要であると感じています。一人の研究者として「面白い」と思ったアイデアを、日本発世界初に昇華させることを目指して、研究を進めていきたいと考えています。