ワクチンで予防できる
主な感染症
監修:川崎医科大学 小児科学教授 中野貴司先生
ワクチンで予防できる感染症を紹介します。
- 感染経路
-
飛沫感染、接触感染
- 症状
-
発熱(38℃以上の高熱が多い)、悪寒、頭痛、筋肉痛などの全身症状が突然あらわれます。潜伏期は24~72時間です。呼吸器症状は遅れて出現することが多く、鼻閉、咽頭痛、せきなどです。合併症がなければ数日~1週間で治癒します。合併症、特に肺炎や脳症を併発した場合は重篤となります。
- ワクチン
-
- インフルエンザHAワクチン
- 感染経路
-
空気感染、飛沫感染、接触感染
- 症状
-
特徴的な発疹が主な症状でかゆみを伴います。発熱を伴うこともあります。発疹は斑点状の赤い丘疹から始まり、その後3~4日間は水疱(水ぶくれ)となり、最後はかさぶたを残して治癒します。発疹はお腹や背中、顔などに多い傾向がありますが、頭部など髪の毛に覆われた部分にも現れるのが特徴です。
通常1週間程度で治癒しますが、まれに脳炎や肺炎、肝機能の異常を伴うことがあります。妊娠20週までの妊婦が水痘に罹患した場合、約2%の児が先天性水痘症候群(低出生体重、四肢低形成、皮膚瘢痕、局所的な筋萎縮、脳炎、脈絡網膜炎、小頭症等)を発症します。
詳細はみずぼうそう.jpをご参照ください。 - ワクチン
-
- 水痘ワクチン
- 原因
-
水痘が治った後も体に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが、加齢、病気などで免疫が低下したときに再び活動を始め、帯状疱疹を引き起こします。
- 症状
-
帯状の発疹、神経の痛み
体の左右どちらかに、水ぶくれを伴う赤い発疹が、帯状に広がります。ピリピリ・ズキズキした強い痛みを伴うことが多く、症状は時には数週間以上続きます。皮膚症状が治った後も、帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれる長期にわたる痛みが続くことがあります。
詳細は帯状疱疹.jpをご参照ください。 - ワクチン
-
- 水痘ワクチン
- 帯状疱疹ワクチン
- 感染経路
-
空気感染、飛沫感染、接触感染
- 症状
-
高熱、せき、鼻汁、めやに、眼球結膜の充血、発疹を主症状とします。発症後、最初の3~4日間38℃台程度の熱が続き、一時おさまりかけたかと思うと、また39~40℃の高熱と発疹が出ます。高熱は3~4日でおさまり、次第に発疹も消失しますが、しばらく色素沈着が残ります。発熱期間は計1週間程度になります。主な合併症として、気管支炎、肺炎、中耳炎、脳炎があります。患者100人中、中耳炎は約7~9人、肺炎は、1~6人に合併します。脳炎は、約1,000人に1~2人の割合で起こります。また、亜急性硬化性全脳炎(SSPE ※)という慢性に経過する脳炎が、約10万人に1~2人発生します。
subacute sclerosing panencephalitis
- ワクチン
-
- 麻しん風しん混合ワクチン(MR)
- 麻しんワクチン
- 感染経路
-
飛沫感染、母子感染(胎内感染)
- 症状
-
発疹、発熱、リンパ節の腫脹などが主症状です。軽いかぜ症状で始まり、麻疹と似た発疹、発熱、後頸部リンパ節腫脹のほか、眼球結膜の充血が見られることがあります。発疹も熱も約3日間で治る場合も多いので、「3日ばしか」とも呼ばれます。基本的には予後良好な疾患ですが、高熱が持続したり、血小板減少性紫斑病(1/3,000〜5,000人)※1、急性脳炎(1/4,000〜6,000人)などの合併症により、入院が必要になることがあります。
妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性の心臓病、聴力障害、白内障、発育発達遅延などの症状を呈する先天性風疹症候群(CRS※2)を発症する可能性が高いといわれています。- 血小板減少性紫斑病:血小板減少を来たす他の明らかな病気や薬剤の服薬がなく血小板数が減少し、出血しやすくなる病気。
- CRS:Congenital Rubella Syndrome
- ワクチン
-
- 麻しん風しん混合ワクチン(MR)
- 風しんワクチン
- 感染経路
-
日本脳炎ウイルスを保有する蚊に刺されることにより感染
- 症状
-
7~10日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状を示す急性脳炎になることがあります。ヒトからヒトへの感染はありません。日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち、100~1,000人に1人程度が脳炎等を発症します。脳炎のほか髄膜炎や夏かぜ様症状で終わる人もいます。脳炎にかかった時の致命率は約20~40%ですが、治った後に神経の後遺症を残す人が多くいます。
- ワクチン
-
- 日本脳炎ワクチン
- 感染経路
-
感染したヒトの便から経口感染
- 症状
-
「小児まひ」とも呼ばれ、日本でも代前半まで流行を繰り返していました。ポリオウイルスに感染しても、ほとんどの場合は症状が出ず、一生抵抗力(終生免疫)が得られます。症状が出る場合、ウイルスが血液を介して脳・脊髄へ感染が広まり、麻痺を起こすことがあります。ポリオウイルスに感染すると100人中5~10人は、かぜのような症状が起こり、発熱、続いて頭痛、嘔吐等があらわれます。感染したヒトの中で、約1,000~2,000人に1人の割合で手足の麻痺を起こします。
- ワクチン
-
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオヘモフィルスb型5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオ4種混合ワクチン(DPT-IPV)
- ポリオワクチン
- 感染経路
-
飛沫感染、接触感染
- 症状
-
百日咳はかぜのような症状から始まります。続いてせきがひどくなり、顔をまっ赤にして連続的にせき込むようになります。せきのあとに急に息を吸い込むので、笛を吹くような音がでます。熱は通常出ません。乳幼児はせきで呼吸ができず、くちびるが青くなったり(チアノーゼ)けいれんが起きるあるいは突然呼吸が止まってしまうことなどがあります。肺炎や脳症などの重い合併症を起こしやすく、新生児や乳児では命を落とすこともあります。患者数は減少してきていますが、最近、長びくせきを特徴とする学童から思春期、成人の百日咳がみられ、乳幼児への感染源となり、特に新生児・乳児が重症化することがあるので注意が必要です。
- ワクチン
-
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオヘモフィルスb型5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオ4種混合ワクチン(DPT-IPV)
- 百日せきジフテリア破傷風3種混合ワクチン(DPT)
- 感染経路
-
傷口からの破傷風菌の侵入
- 症状
-
破傷風菌が体の中で増えると、菌が出す毒素によって、筋肉の強直性けいれんを起こします。発症早期には、口が開かなくなるなどの症状があらわれ、その後、全身性の強直性けいれんを起こすようになり、治療が遅れると死に至ることもあります。患者の半数は本人や周りの人では気が付かない程度の軽い傷が原因です。土中に菌がいるため、感染する機会は常にあります。
- ワクチン
-
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオヘモフィルスb型5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオ4種混合ワクチン(DPT-IPV)
- 百日せきジフテリア破傷風3種混合ワクチン(DPT)
- ジフテリア破傷風2種混合トキソイド(DT)
- 破傷風トキソイド
- 感染経路
-
飛沫感染
- 症状
-
感染は主にのどですが、鼻腔内にも感染します。感染しても10%程度の人に症状が出るだけで、残りの人は症状が出ない保菌者となり、その人を通じて感染することもあります。症状は高熱、のどの痛み、犬が吠えるようなせき、嘔吐などで、気道に偽膜と呼ばれる膜ができて窒息死することもあります。発症から2~3週間後に、菌の出す毒素によって心筋障害や神経麻痺を起こすことがあります。
- ワクチン
-
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオヘモフィルスb型5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオ4種混合ワクチン(DPT-IPV)
- 百日せきジフテリア破傷風3種混合ワクチン(DPT)
- ジフテリア破傷風2種混合トキソイド(DT)
- 感染経路
-
飛沫感染
- 症状
-
インフルエンザ菌、特にb型は、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎などの他、髄膜炎、敗血症、肺炎などの重篤な侵襲性感染症を引き起こします。Hibによる髄膜炎は、以前は、年間400人が発症し、約11%が予後不良と推定されていました。現在は、Hibワクチンが普及し、侵襲性Hib感染症はほとんどみられなくなりました。
Hib感染症は、インフルエンザウイルスとは別の微生物(細菌:インフルエンザ菌b型)による病気です。
- ワクチン
-
- 百日せきジフテリア破傷風ポリオヘモフィルスb型5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)
- 乾燥ヘモフィルスb型ワクチン(Hibワクチン)
参考文献
- 岡部信彦/岡田賢司/齋藤昭彦/多屋馨子/中野貴司/中山哲夫/細矢光亮「予防接種のてびき2022-2023年度版」
- 公益財団法人予防接種リサーチセンター「予防接種と子どもの健康 2023年度版」から転載(一部改変)
- 一般社団法人日本ワクチン産業協会、予防接種に関するQ&A集 2022・よぼうせっしゅのはなし 2022
- 国立感染症研究所 「インフルエンザとは」、「風疹とは」