監修:川崎医科大学 小児科学教授 中野貴司先生

免疫を高めて、
感染症への防御力を高める

私たちの体には“免疫”という感染症に対する抵抗力が備わっており、ワクチンを接種することで感染症に対する免疫が高まります。免疫は、体外から病気の原因となるウイルスや細菌などの病原体が侵入しても、私たちが病気にならないよう守っています。ワクチンを投与することを予防接種といい、免疫を利用して感染症から身を守ります。
予防接種は、世界中で毎年何百万人もの命を救っています。

感染症と免疫

「感染症」とは、ウイルスや細菌などの病原体が体に入り、体内で増えることで引き起こされる病気です。免疫はその病気に対する抵抗力で、特に乳幼児期には免疫が未発達であるため感染症にかからないようワクチンによる予防接種が大切です。
ワクチンは、ウイルスや細菌、または、細菌が作り出す毒素を不活化したり弱めたりしたものをもとにつくられており、ワクチンを接種することで感染症に対する免疫ができます。ワクチン接種後に、発熱、発疹、接種箇所の発赤・腫れ・しこりなどの症状が起こることがありますが、通常、数日以内に自然に治ります。

ワクチンの種類

国内で使用されているワクチンは主に、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドに分類できます。近年では、mRNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなどが承認されています。

生ワクチン

生きたウイルスや細菌の毒性を弱めたものです。これを接種することで、その病気にかかった場合と同じように免疫ができます。

例:水痘ワクチン、麻しん風しん混合ワクチン

不活化ワクチン

ウイルス粒子や菌体等を集めて精製した後、加熱やホルマリン等の薬剤を用いて処理し、病原性を消失又は無毒化したものです。

例:インフルエンザHAワクチン、日本脳炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン

トキソイド

細菌が産生する毒素を取り出して無毒化したものです。あらかじめ毒素に対する免疫をつけておくことで、細菌に感染した時に細菌が産生する毒素による発病を抑えます。

例:破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド

mRNAワクチン

ウイルスの遺伝情報をmRNA(メッセンジャーRNA)として投与するものです。mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、ウイルス表面のスパイクタンパク質がつくられ、体内でウイルスに対する免疫ができます。

例:新型コロナワクチン

ウイルスベクターワクチン

ウイルスの遺伝情報を無害化したウイルス等に挿入して投与するものです。遺伝情報がヒトの細胞に取り込まれると、ウイルス表面のスパイクタンパク質がつくられ、体内でウイルスに対する免疫ができます。

例:新型コロナウイルスワクチン

予防接種とは

予防接種とは、ワクチンを体に接種して、その病気に対する抵抗力である免疫をつくることを言います。
予防接種は、一人ひとりが感染症にかかることを防ぐことが重要な目的です(個人免疫)。
また、一人ひとりの免疫が高まると、集団での感染症は減ります。たとえ、発症者が発生したとしても、少数にとどまるため、社会全体を守ることに繋がります(集団免疫)。多くの人が免疫をもつとその感染症の発生は少なくなってくるので、予防接種を受けていなかった少数の人にも感染の危険性が少なくなります。
なんらかの基礎疾患があって受けられなかった人、何か理由があって受け損ねた人も、予防接種を受けた人によって守られます。

定期接種

予防接種法によって対象疾病、対象者、接種期間などが定められたものです。多くの自治体では、対象者の接種費用は公費で賄われます※1
定期接種には、A類疾病とB類疾病があります。前者は主に集団予防、重篤な疾病の予防に重点をおいているため、対象者は予防接種を受けるように努めなければならないこと(努力義務)とされています。後者は主に個人予防に重点を置き、努力義務はありません。
極めてまれに重大な健康被害が生じることがあり、このような場合に厚生労働大臣が予防接種法に基づく定期の予防接種によるものと認定したときは、健康被害救済の給付の対象になります。

任意接種

予防接種法で定められていない予防接種や、定期接種の年齢枠からはずれて接種する場合が任意接種です。接種を希望する人は、医師との相談によって接種を判断し、接種費用は原則自己負担です※2。任意接種で健康被害が生じた場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済を受けることになります。

定期接種、任意接種の他に、病原性の高い新型インフルエンザが発生した場合等に実施される「臨時接種」等があります。

  1. 接種費用詳細は、お住まいの自治体にご確認ください。
  2. 公費助成制度がある場合もありますので、お住まいの自治体にご確認ください。
参考文献
  • IMMUNIZATION AGENDA 2030 A global strategy to leave no one behind IA2030
  • 公益財団法人予防接種リサーチセンター 「予防接種と子どもの健康 2023年度版」
  • 一般社団法人日本ワクチン産業協会、「予防接種に関するQ&A集 2022」、「ワクチンの基礎2022」
  • 中山久仁子「おとなのワクチン」